【佚斎樗山子 (いっさいちょざんし)】

 佚斎樗山子とは、関宿藩士、丹羽十郎左衛門忠明(1659-1741)のことである。
 忠明は禅、儒、老荘に造詣深く、また文才に秀で、多数の著作があるが、とくに有名なのは 『天狗芸術論』、『田舎荘子』中の「猫の妙術」である。

 

■『天狗芸術論』

 一人の武芸者がいた。彼は長年にわたって武術の修行を重ねてきたが、容易に満足できる境地に達することが出来ずに悩んでいた。
 聞くところによれば、牛若丸は、鞍馬の山中で大天狗・小天狗から秘術を授かったという。
  そこで武芸者は天狗の教えを受けたいと思い、深山に分け入って岩の上に坐し、毎夜のように天狗を呼び続ると、ある夜、天狗が現れ、武芸者と武芸の精髄について問答をすることとなった。

 

■『猫の妙術』

 ある家に大きな鼠が現われた。近隣の鼠捕りの達人である猫たちが、これを捕らえようとするが、みな散々の目にあわされ一匹として歯が立たなかった。
 そこで、一匹の年老いた猫があらわれ、難なく鼠を捕らえてしまった。
  不思議に思った猫たちが、老猫にその極意を問うたところ、老猫は、他の猫たちの至らぬ点を一つ一つ指摘しつつ、自然の道に逆らうことがなければ何事も自在になしうる道理を説いた。